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管理とマネジメント - Column - リスク共生社会創造センター|横浜国立大学

Column

Column 04 リスク共生対話 

リスク共生×国際経営論(第2シリーズ)第6回(2024.10.03 掲載)管理とマネジメント

対談:周佐喜和/澁谷忠弘 聞き手:伊里友一朗

伊里:
 周佐先生のところにも経営で迷っている経営者の方が訪ねてくることがありますか?

周佐:
 来ないです。日本の経営学者は信頼されていないらしくて。それはそれでよいのですが……。

伊里:
 でも海外だと経営学は役に立つものと信頼されている。

周佐:
 アメリカをはじめとして、経営学者はビジネススクールの先生であることが多いのですが、あの人たちは、大学(大学院)の先生と同時にコンサルタントもやっているからです。アメリカの大学は10カ月しか給料をくれないと言います。昔から夏休みの2カ月は給料を出さない代わりに、副業はやりたい放題です。その副業が、コンサルタントというわけです。

 直接聞いたわけではないけれども、あるアメリカのビジネススクールの先生が言っていたらしい。日本はよい国だ、と。日本人の学者はコンサルタントをやらないから俺たちが荒らし回れる、ということを言ったとか、言わなかったとか……。

伊里:
 日本の経営者の多くも海外製の経営理論のようなものが好きですよね。

周佐:
 好きなのです。ポーター先生が競争戦略論でこう言っていますよね、とか。

伊里:
 そのようなコンサルタントの人というのは、企業の経営に関して、まずどういうところから分析を始めるのですか?

周佐:
 人によりけりで、分野によっても違うと思いますよ。例えば、経営組織論の中で組織開発論という分野があります。平たく言うと、たるんでいる組織をどうにかシャキッとした組織に変えられないか、あるいは古臭くなった組織を刷新できないか、ということを目的にしたものです。この組織開発論では、組織メンバーの心理的状態(組織変革に対するモチベーションなど)とメンバー間の対人関係を望ましい方向に変えることで、組織の業績改善を狙うのが基本なのですが、その時に変革のトレーナーやファシリテーターとしてコンサルタントが関与することが前提になっています。組織の現在の状況、自分たちの今の心的状態、将来進めるべき組織変革の方向性などについて、組織メンバーに正しく理解させる上で、コンサルタントのような専門知識や技能を持った人たちに頼ろうという発想です。当該企業から独立したコンサルタントを利用する一つの理由は、その職場で仕事にどっぷり漬かっている人たちとは違った見方ができるので、ひょっとしたらここに問題があるかもしれないということに気が付きやすいということです。そうしてあぶり出された問題点をその会社の人と確かめ合って、自分が勉強してきた理論も合わせて次にどうするかを考える。そういう仕事をするわけです。もう一つの理由としては、会社の中のいつも見慣れている人たちが急に何か変えようと言い出しても、あの人たちの言う通りにして本当に大丈夫なのか不安がられるということが考えられます。こうした不安を取り除くために、自分たちがやろうとしていることの権威付けとして、外部のコンサルタントを利用するということです。

 さて、外部のコンサルタントは会社の中の人間と違った見方・考え方ができるのが長所だと言いましたが、会社の中のことを全く知らないのでは見当違いの認識に基づいてとんでもない提案をしてしまう心配もあります。実際に、トレーナーやファシリテーターを務めるコンサルタントの出来・不出来によって、組織開発の成果もかなり違うという報告もあります。そこで、コンサルタントの中には、参与観察といって、実際の職場に来て一緒に作業までして、どういう組織なのか、問題は何か探ろうという人もいます。彼ら・彼女らは、日常の仕事の中の何気ない会話の中から、組織の問題発見や、課題解決の手掛かりを探ろうとします。

 しかし、このように組織“開発”をしようとすると、組織を変えるということに対してその組織の所属している人からの抵抗も当然あります。その時に大事なのはその組織の人に危機意識を持たせることと逃げ道を与えることの2つを同時にやることらしいです。危機意識がないと真剣に組織の変革に取り組んでもらえないし、でも危機意識が強すぎると、この会社にいてもよいのかなと迷っている人から辞めていってしまう……。

澁谷:
 今のお話は安全工学における管理論に近いイメージですね。われわれは(定められた水準を維持することを目的とする)安全管理と(価値を創出する意思決定支援を目的とする)安全マネジメントという言葉を使い分けるように、ということをよく言うのですが、今のお話は何となくマネジメントではなく、管理論の方のイメージを持ちました。経営の中では管理とマネジメントというのは使い分けられているのですか?

周佐:
 管理というのは、僕はあまり使わないです。なぜかというと、私が若い時には管理というと管理教育や管理野球という言葉があって、そのせいで“管理”という言葉のイメージが悪かったのです。管理と言うと、「箸の上げ下ろしの仕方まで、決められた通りにしないと叱られる」というイメージがあります。

 だけれども、管理もマネジメントも、あるいは経営も、結局意味するものは同じです。どちらも、目標を決めてそれを達成するということが主眼になりますし、自分で何から何までやるのではなく他者をどのように動かすのかが問われる、という点では違いがありません。経営とは何かという中心が時代によって変わっていて、一昔前の人はその中心をプロセスマネジメントと言っていて、いわゆるPlan・Do・Check・Actionという仕組みで管理を進めるものだと考えました。実はこのような考え方は100年も前からありました。そして、1950年代から1960年代になると、そのプロセスごとに、科学的知見を熟知した専門家をつくればよいという発想が盛んになります。プランニングをやる人は会社のポリシーを立てる人、評価する人は経営評価などに特化しましょう、という風に。そういう時代の人たちは管理という言葉を使っていて、経営管理論という言葉もあるくらいです。この考え方はもともとは生産管理論から出てきたのです。工場はまず計画を立てないと駄目で、でも実際にやってみると機械はトラブルから、いかに早く直すかという問題になる。そのトラブルに凝りたら、どうすれば機械が止まらないかを考えようということになります。そうしてPDCAサイクルを繰り返せばよくなる、改善していくという発想です。

澁谷:
 生産管理の延長線上にある安全管理は100年前から変わっていないということですね。

周佐:
 そういう昔からいる人たちは管理という言葉が好きなのです。しかし、あとから新たに経営学に入ってきた人は、そういうものはちっぽけな話に聞こえるのです。プランニングと言っても、既に知られていることをうまく実行しようという程度の話しでしょ、と。自分は「今までに経験したことのないことを実現するイノベーションがこれからは必要だ」と華々しくやりたい。そういうときは、「イノベーション管理」とは言わないで、「イノベーションのマネジメント」という別の言葉を使うわけです。