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リスク共生社会とは

本センターは、リスク共生社会の実現のための研究とその成果の社会実装を行うセンターです。ここでは、本センターが活動の前提としているリスク共生の概念を紹介します。

現代社会には多様なリスクが潜在しています。リスク共生を理解するには、このリスクという概念を知ることが大切です。

リスクとは何か

リスクという概念は、様々な分野で広く使用されていますが、リスクの定義も時代と共に大きく変化してきています。これまでリスクは、検討される分野によって異なる定義がありました。

例えば、アメリカの原子力委員会は、
リスク = 発生確率 × 被害の大きさ
と定義しました。

また、MITでは、
リスク = 潜在危険性/安全防護対策
と定義しました。

これらの定義からわかるように、リスクの定義としては、生命、環境、社会活動に対して不確かな影響を与える危険性と認識されることが多かったようです。しかし、最新のリスクマネジメント規格ISO31000では、リスクは「目的に対する不確かさの影響」と定義されていて、その影響は期待されることから「好ましい影響」と「好ましくない影響」があるとされています。

この定義によると、リスクは好ましくない影響のみを扱うのではなく、好ましい影響と好ましくない影響の双方を取り扱うことになります。また、リスクを目的との関係で定義されたことにより、目的を決定しないと「何がリスク」かも決定できないことになっています。リスク共生を考える際の「リスク」は、この定義を採用しています。

このリスクの採用により、社会に投入される技術や施策は、社会に対して好ましい影響と好ましくない影響をもたらす可能性があり、リスクの影響として、その双方の影響を考えることになります。リスクのもたらす好ましくない影響を変えようとすると、好ましい影響も変化することになる、これがリスク共生の基本となります。

多様なリスクに対する新たなコンセプトの必要性

これまでの社会では、個々のリスクに関する対応は行われてきましたが、社会のリスク全体に対してどのように対応していくかは、まだ検討するフレームも含めて定まっていません。

従来、リスクは、小さくするものと考えられその対応が行われてきました。しかし、あるリスクへの対応は、他のリスクへも影響をもたらすことから、個々のリスクを小さくするということでは、社会の最適化は図れません。

その上、社会が高度化し対応すべき問題が複雑に関与しあうため、これまでの対応方法の限界が明らかになってきており、新たな対応のコンセプトが求められています。この新たなコンセプトの一つが「リスク共生」という考え方です。

リスク共生の基本概念

リスク共生の基本は、潜在する多様なリスクから社会や組織目的に応じて受け入れるリスクを選択していくことです。
また、社会に潜在するリスクは互いに関係しており、あるリスクへの対処が他のリスクにも影響を与えます。つまり、社会に潜在するリスクは、独立ではなく、あるリスクを小さくすれば、あるリスクは大きくなるという関係にあるのです。

したがって、個別リスクへの最適なリスクの集合が、社会に潜在するリスク全体への対処としては必ずしも最適な対応とは言えなくなります。

ある問題への対応策が別の問題を引き起こす可能性があるためです。つまり政策の選択や課題への対策実施により新たな政策や対策が引き起こす可能性があるために、リスクの総和は求める豊かさに比例して一定の値を持つとも考えることができるのです。

このことから、社会のリスク全体への対応としては、どのリスクをどのレベルで受け入れるかというリスク対応のバランスをとることが重要になります(図1参照)。これがリスク共生の考え方です。

【図1】 リスク共生社会におけるリスクの捉え方

リスク共生社会創造の要件

リスク共生社会の創造には、社会のリスクへの対応を考える際に、そのリスクを社会全体の視点で他の多様なリスクへの対応と共に社会の最適化の視点で検討することが求められます。リスク対応では、特定の好ましくない影響は小さくすることは可能であっても、リスクへの対応策が別のリスクを派生させるためには、何らかのリスクを受け入れる必要があるということを認識してリスク対応を考えることが重要です。
(成長をしないというのも、ある価値観では好ましくない影響)

しかし、リスクの受け入れの選択が難しい理由として、社会には様々な価値観があり、時期、状況、立場によって対応すべき問題が異なっているということがあります(図2参照)。

一般に、リスク対応においては、目前の課題や自分が担当する課題の解決に注力する傾向があり、その課題対応によって発生する新たな課題に対して関心が薄かったり、把握する技術がなかったりする場合が多いからです。

このような状況下でリスク共生社会創造のための活動ステップを社会全体で共有し活動を実施していく必要があります。

【図2】 社会の多様な価値調査例

リスク共生社会創造のための活動

リスク共生社会創造のためには、まず目指す社会像・価値観の構築・共有する必要があります。そのためには、社会価値の体系化や優先順位等を明らかにすることが必要です。

次に実施すべきことは、社会目的に対して影響を与えるリスクを体系的に特定し、それぞれのリスクの分析を行うことです。このリスク分析には、社会自体の変化やその環境の変化を考慮する必要があるのはいうまでもありません。個々のリスク分析における課題もそれぞれの領域で検討する必要があります。

また、リスク共生社会創造の為には、文系理系という枠組みで議論することが多かった学の世界の改革も必要になります。リスク共生社会を考える際に重要なリスクという概念は、影響を及ぼす対象(主として理系の知識による分析対象)と影響を受ける対象(主として文系の知識による分析対象)との相互作用です。したがって、リスクやリスク共生を考える場合は、必然的に文理融合の枠組みでないと扱えない事になります。

リスク共生社会創造は、社会創りであると同時に、新たな学問体系の創造活動でもあります。

そして、今後の重要な研究対象として、社会目的に合わせて受け入れるリスクを合理的に判断する手法の開発とその手法を活用するシステムの構築です。

本センターでは、リスク共生社会創造に必要な研究開発を行うと共に、その実効性を検証することを目的として、研究成果の社会実装を行っています。また、社会の多様なリスクを評価するための社会リスク評価プラットホーム(図3参照)の構築を活動のベースとして、リスク共生の考え方に基づく様々なリスク対応の社会実装や情報発信を通じて、リスク共生社会の考え方を普及していく所存です。

【図3】 社会リスク評価プラットホーム