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マネジメントとガバナンス - Column - リスク共生社会創造センター|横浜国立大学

Column

Column 04 リスク共生対話 

リスク共生×国際経営論(第2シリーズ)第11回(2025.01.15 掲載)マネジメントとガバナンス

対談:周佐喜和/澁谷忠弘 聞き手:伊里友一朗

伊里:
 意思決定の話まできましたけど、よくリスク共生に関するシンポジウムでの質疑応答で、目標自体はどうやって決めていけばよいのか、という質問をされる方が結構多かったと思っています。

周佐:
 その話を伺っていて、経営学で一番近い領域は、先ほど触れたコーポレート・ガバナンスかなと思います。ガバナンスとマネジメントは違います。

伊里:
 詳しく説明をいただいてよろしいですか。

周佐:
 マネジメントというのは、ある人に言わせると、目標が与えられた時にどのようにその目標に応えるかというものです。manageってもともと馬を御するという意味らしくて、馬をいかに御して自分の思うほうに連れてくるかというのが言葉の根っこにある。だから、ニュアンス的には努力するという意味、しかも泥くさく努力するという意味と目標達成をするという2つの意味がある。経営学が考えるマネジメントでは目標を達成するという意味のほうが本当は強い。

 では、企業の目標はだれが決めるのか。その目標は経営者が決めるのではなくて、やはり企業のオーナーが決めるものである。厳密には主権者と言いますが、主権者としてのオーナーが企業の目標を本来はつくるものだというのが前提としてあるわけです。そうすると、後で触れるように、オーナーが経てる目標設定が社会的に見て正しいのか、正しくないかということが問題になってくるわけです。それを扱うのも、コーポレート・ガバナンスです。

 ただし現実には、経営者が必ずしも主権者(オーナー)の言うとおりに行動するとは限らないわけです。例えば、株式会社ならばオーナーは株主になるわけですけど、その株主の意に反することをやったといわれて突き上げられている経営者がたくさんいますよね。

 どうすればそのようなミスマッチが防げるのかというのがガバナンスを考える上での最初の出発点です。

 でも、今はもっと広がっていて、会社には利害関係を持っている人は株主だけではないですよね。いろいろなステークホルダーがいて、それぞれのステークホルダーが会社にとって大切な役割を果たすので、いかにマルチ・ステークホルダー間で合意を形成して会社の目標を決めていくか、というところまで考えるべきだということになっている。これがコーポレート・ガバナンスの中心テーマになっているのです。企業の社会的責任の問題も、この文脈で考えることができます。

 リスク共生のお話を聞いていて、多様な主体間で目標から考えましょうというのは、経営学的な観点では、マネジメントではなく、ガバナンスに近い考え方だと思っています。

澁谷:
 ガバナンスには見張りのようなイメージだったのですが、目標を決めていく方も含まれているのですね。

周佐
 ガバナンスにはその両方があって、もちろん見張りや監視も入っています。ただ目標を決めても経営者が守るとは限らないわけで、それを見張らないといけないわけです。見張る時はマルチ・ステークホルダーに見張りをさせましょうという議論になります。もう一つ付け加えると、経営者が目標を守らずに悪いことをしている場合に、経営者にきちんと処罰を与える、場合によっては経営者を交代させる強制力も必要で、これをどうやって確保するのかも、ガバナンスの問題に含まれます。

伊里:
 これはよいことを教えてもらいましたね。

澁谷:
 とても勉強になりました。

周佐:
 大体、ステークホルダー同士は利害が対立するからステークホルダーなのであって、そこでどう折り合いを付けるかという話も入ってくるわけです。

 僕の意見だと、むしろ株主主権論が危ないのは、株主以外のものは無視してよい、迷惑をかけてもよいというような意見になりがちだということです。それではほかのステークホルダーが納得しないですよねと。

 例えば、金もうけをするのなら障害者は採用しないほうがよいという意見が通ってしまったら、SDGsのインクルーシブ経営はもう駄目ですよね。株主の利益第一主義の考え方が強くなりすぎると、そんな考え方が出てくるかもしれません。でも、本当にそれでよいのか、企業を取り巻く社会がそれで納得するのかという話です。本来はそこまで考えてのガバナンスの議論であるべきです。そういう人たちもインクルーシブにしましょうというのが、昨今の社会良識だと思います。では、そうした人たちもインクルーシブにするのを保障するために、経営者を見張る社外取締役にはそういうことに熱心な人たちを取り込みましょうという話になってくるわけです。繰り返しになりますけど、目標を決めるプロセスと、決まった目標をきちんとやっているかどうかを見張るというのはセットなのです。

伊里:
 これは重要なご示唆ですね。逆に言うと、リスク“マネジメント”の世界で我々が今までやろうと思っていたことはガバナンスの観点から展開するべきだった話だったのですね。

周佐:
 誰かが目標を決めたあとの世界だけならば、マネジメントの考え方で結構です。

澁谷:
 まずはリスク・ガバナンスの考え方から見直しが必要ですね。