Column 04 リスク共生対話
リスク共生×国際経営論(第2シリーズ)第12回(2025.02.14 掲載)リスク共生学と経営学の共通点と相違点
対談:周佐喜和/澁谷忠弘 聞き手:伊里友一朗
澁谷:
ステークホルダーマネジメントというのが、今リスクマネジメントの中でも整理できていない状況になっているところがあります。リスク共生の中で社会全体をマネジメントしようとしているのですが、マルチステークホルダーのマネジメントをどうしようか、という話になっているのです。先ほどのお話だと、ステークホルダーマネジメントというのはガバナンスの中でやるべき項目という位置付けですか?
周佐:
そうです。なぜかというと、マネジメントという概念は焦点組織という個別の組織に焦点を当てるから今までお話ししてきた議論が成り立つものだからです。
経営学には社会そのものをマネジメントしようという発想ではないわけです。あくまでも経営学は一本一本の木を対象とするものなのです。企業などの組織は、それをつくる目標があって、それを実現するために人為的につくられると想定しやすいですが、社会は人がつくったものではあるけれども、社会の目標を事前に想定してつくったわけではないでしょうから。
伊里:
経営学は森全体をマネジメントするわけではない?
周佐:
そうそう。だからといって、一本一本の木をマネジメントすることに意味がないかというと、そういう訳でもない。この点は、強調しておきます。
ただし、木と木の関係を考える分野はちゃんとあります。前にもお話しした組織間関係論という分野です。そうした組織間関係論でも、初期の頃は特にそうだけれども、焦点組織にまずは力点を置きます。だけど、組織間関係論もなかなか面白いです。
古典的な組織間関係論は“パワー”という概念を基本として組織というものを考えていきます。そして、経済学をやっている人は“金もうけ”企業組織の第一の目標として考えるのだけれども、組織関係論の理論に立つ人は、企業を含めた組織の一番大事なことは自立性と捉えます。よそから干渉されないこと、好きなことができることが自立性。でも、そうであっても、他の組織に影響力を及ぼしたいという、支配したいという意欲も常に持っているわけです。だから、パワーを持っているところはそれを行使しようとするし、パワーのないところは何とかして相手のパワーを弱めようとします。
なかなか面白いですよね。例えば、片思いという状態は相手のパワーが一番強い状態です。自分はこの人がいないと、この組織がないと生きられないけれども、この組織は私がいなくても生きていられるという時は最悪の状況で、どうやってこれを両思いの関係にするのか、と考えるのです。
伊里:
当たり前かもしれませんが、ここまでお話を伺ってきて、経営学的な視点はリスク共生の考え方と共通していますね。
澁谷:
そもそもリスク共生学のベースはリスク「マネジメント」だから、経営学がベースになっているのが前提です。
周佐:
野口先生がおっしゃっていたことで大事だなと思ったのは「リスクマネジメントが最終目標にはならない」ということです。例えば“お金もうけ”や“自立性”など、もっと上に立つ概念があって、それが自由にならないから、これらを妨げる要因が出てきてしまうから、それをリスクとして捉えて何とかリスクを減らせないかなとリスクマネジメントは考えるのでしょう。だけれども、先ほどの片思い・両思いではないけれども、普通、リスクゼロにはできない。だから、相手にも痛みを覚えてもらう代わりに、自分も痛みをここまでは感じないと駄目だよねとリスクを引き受ける必要がある。
100対ゼロの割合で相手を完全に従わせるのは、特に弱小な立場にいる組織ではなかなかできないわけです。だから、このくらいは相手にパワーを握られてもよいけれども、自分たちもこのくらいはパワーを取り返そうということになります。そうすると、リスクゼロは現実的ではないという話や、リスク共生の概念も腑に落ちるわけです。そして、リスクは納得して取っているという話しも。
澁谷:
先ほど周佐先生がおっしゃられたように、上位の目的があって、それに対して、いろいろな要素にリスクが付随するというお話だったのですが、リスク共生のもう一つの捉え方は、ある上位の目標に対してリスクが何なのか、何がリスクかというところから始めて、それぞれ個別に落としていくという話なので、そこは少し違うのか同じことなのか、というのは微妙なところですね。
周佐:
前にも述べた通り、経営学の方ではリスク自体を正面に捉えていません。
澁谷:
だから、捉え方の違いですよね。リスクをベースにして、目的達成のために必要なものは何なのかという考え方と、目的達成から落とし込んでいって、その各項目にリスクがあるかないかというのを見ていくというアプローチが若干違うので、そこがたぶん経営学とリスク共生学の違いになってくるのかもしれません。
伊里:
今の話は大事ですね。この対話を通じていろいろなことが分かってきましたね。
まだまだ語りつくせぬことがたくさんあったと思うので、近いうちにまた周佐先生をお呼びして延長戦をやりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
周佐:
こういうのでよかったですか。
伊里:
とても面白かったです。最後にコラム用の写真を撮りましょう。
