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「よい意思決定、わるい意思決定② 」 - Column - リスク共生社会創造センター|横浜国立大学

Column

Column 04 リスク共生対話 

リスク共生×国際経営論(第2シリーズ)第10回(2024.12.20 掲載)「よい意思決定、わるい意思決定② 」

対談:周佐喜和/澁谷忠弘 聞き手:伊里友一朗

周佐:
 他方、社会学系の人だったら、人間社会にはしがらみがあるから、横並びにはそれで価値があるという研究になってしまうわけです。横並びにしないと世の中からまともなところだと扱ってもらえないからです。そういう概念を難しい言葉で正当性というのですが、正当性を取るためにはよそと似たりよったりのことを言わないといけない、大学の場合だと、やはり国際性や先進性をうたわないとまともな大学だと見てもらえない。だから、あえて時代に逆行する、たとえば「コーネル大学は国際性の重視という浮ついたことは言わずに、アメリカの伝統を守るドメスティックな大学であり続ける」なんてことは間違っても言わないですよね。内心では、ありきたりのことを言うだけでは何の意味があるのかと疑っていたとしも。そういうようなものです。

 このように、合理性と正当性のどちらを重視するのかによって、良い意思決定と悪い意思決定の中身は大きく変わってきてしまいます。外から見ていると、大いに戸惑いますよね。

澁谷:
 リスク共生の時の意思決定はよく納得できるかどうかというのを基準にしているのですが、今、おっしゃった正当性というのも少し近い。でも、納得性と正当性は少し違う。

周佐:
 正当性というのは、自分で決めるというよりも、周りがそうだから流されるということに近いですね。特に社会学で言っているのは。

澁谷:
 そうすると、納得性というのは自分自身が納得するので、やはり周りの意見というよりは、当事者が納得した上で意思決定するというのがよいということになる。

周佐:
 今の話はたぶん組織文化論か、コーポレートガバナンスの議論に近くなってくると思います。

 組織文化論は、組織内部の人たちが無意識のうちに大切だと考える価値基準が組織ごとに異なるという点に焦点を当てます。そこから、ある組織では賞賛されること、あるいは当然行われるべきことであっても、他の組織では同じことが非難されること、あるいはとんでもないことになってしまう現象を説明します。これは、納得できる意思決定の中身が組織ごとに違うことを説明する理論だと言えるでしょう。

 他方、コーポレートガバナンスの議論は、企業組織を取り巻くステークホルダー間の利害調整を行っていくプロセスの中で、組織が持つ根本的な価値観がどのように決まるのかという問題を扱います。これは、どういう意思決定をすれば、多数のステークホルダーの間で納得してもらえるのかという問いに通じると考えられます。特定のステークホルダーの利害だけを重視したのでは、他のステークホルダーが離脱して組織が立ち行かなくなる。こうした事態を回避するために、ステークホルダーの皆が納得できそうな落としどころを探るということが、コーポレートガバナンスでは問われます。経営学の対象は企業などの組織ですから、純粋な個人としてではなく、参加している人々の間で納得できる合意をどうやって得ていくのかという点に焦点が当たるわけです。

澁谷:
 それは安全の分野だと安全文化になるかもしれません。

 いろいろなところにアナロジーが出てくるわけでおもしろいですね。みんな同じようなところで悩んでいる。

周佐:
 結局、組織文化論は、組織が持つ無意識のうちの価値観や基本的な考え方(パースペクティブ)に参加者が納得できるかという話しになります。ある事柄が、ある前提が当たり前と思えば、組織にスッと入れるけれども、違和感を感じっぱなしの人はやはり出ていってしまいます。だから、強い組織文化を持つ組織では参加者の結束力が強まって一枚岩的になってくるのですが、他方でそうした組織文化に馴染まない人たちには強烈な遠心力が働いて退出を促す作用が働きます。