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「参加」の敷居を低くする発想転換と「コミュニカティブ・スペース」づくり -総合防災、まちづくりと四面会議システム(後編) - Column - リスク共生社会創造センター|横浜国立大学

Column

Column 05 超学際研究:社会課題への新たなアプローチ

第3回(2024.12.11 掲載)「参加」の敷居を低くする発想転換と「コミュニカティブ・スペース」づくり -総合防災、まちづくりと四面会議システム(後編)

岡田 憲夫関西学院大学 災害復興制度研究所

四面会議システムで居合わせ(共に何かを仕上げる)仲間づくりのコミュニケーション

図-1  お花見のアナロジー: 共に居合わせ仲間と何かをし合う場づくりモデル
図-2 四面会議図を使った「共に居合わせゴールを目指す仲間作り」のワークショップ

(1)四面会議システムの基本的考え方 ーお花見のアナロジーから四面会議のエキスを説明する

 図-1のお花見の居合わせモデルのアナロジーを敷衍すると、図-2が得られる。四角い敷物を抽象化したものが「四面会議図」である。実際には白い模造紙が使われる。大きさは2~3メートル四方にして使うことが多い、しかし色や大きさ、材料も含めて模造紙でなくても書き込めるものであれば構わない。四面会議図を取り囲むように円に囲まれた領域があるが、そこが四面会議によるコミュニケーションがなされる居場所である。標準的には、教室・公民館などの部屋(の一角)がその居場所に相当する。四面会議図を置くのは、床の上のままでも良いが、目の高さでコミュニケーションを取りながら書き込む作業をするには、机やテーブルの上に置く方が良いかもしれない。(ただしコミュニケーションが高まり、興に乗ってくると自然に床の上に四面会議図を敷いて車座になって進めていくことが良く起こる。つまり形式に必要以上に拘泥しないで自然に進める方が望ましいのである。)

 図-2の四面会議図は正方形である。二つの対角線を引いた後、中央に小さな正方形の窓を作る。この窓が仲間全体で目指すべきゴールと共に何かをする具体的な作品名・プロダクト名を書き込むスロットとなる。正方形の四面は、それぞれ「分担すべき仕事(タスク)や役割」とみなすことにする。なお各面にはそれぞれ台形の部分が対応するが、全体のゴールに向かって各面ごとに提案された仕事(タスク)や役割の小項目がそこに書き込まれることになる。各台形を三段階に区切ってStep 1, Step 2, Step 3の順に進めていくこととし、各項目はそこも考えて検討していく。

 標準的なやり方では、下から反時計回りに、「貨幣・価値資源」(Money and value)、「人的資源」(Human resource)、「情報・知識資源」(Information and knowledge)、そして「物的資源」(Physical resource)がグルーブとして対応づけられる。居合わせる(寄り合う)出席者(attendants)はみんなで相談して最初はこの四面のどこかを受け持つことになる。最低限、4人がいないと始められないが、場合によっては誰かが二面を受け持つことから始めてもよい。できれば12人以上20人程度が望ましい。コミュニケーションが容易に進む頃合いのサイズであろう。各面に3人から4人が配置され、各面の中で仲間になり合いながら共同作業でアイディアを出し、互いに吟味しあいながら各面ごとにとりあえずの素案を決めることになる。

 その後は、各面のグループが互いに向き合う形で、相手の素案の詳細を問い、応え合うことを繰り返して精査する。たとえば物的資源と人的資源の使い方は必ずしも無関係ではなく、双方が密接に調整し合うことでより良い計画になるはずである。また「どれくらいのお金が掛かる」のか、「それだけの値打ち(価値)のある資源の使い方」なのか、「情報や知識で補うことはできない」のか、 そういったことをやりとりすることで全体としてより良い素案になっていくはずである。
 
 このようなことをWin-Winで進めていく創造的なディベートや役割の取り換え(逆転ディベート)などのゲーム感覚的な仕掛けも組み込まれている。これによって「自分はいかに少なく分担するか」ではなく、「自分たちのアイディアや提案がいかに多く活かされるか」を全体で競いで出し合い協力しあうワクワクする居合わせコミュニケーションの場が実現する。ワークショップのアウトカムも全員で工夫して創造的に実践することにつながる。ところでそもそも四面会議をする居合わせのきっかけづくり(の仕掛け)はどうなるのか? 花見のための茣蓙(ござ)やビニールシートを敷いて場所を確保していくプロセスが一番大事ではないか?  そういうことに気づくことでBe there together, Enjoy and Exciteの居合わせを始めるBEステージを工夫して付け加えることになった。これがBECAUSE process modelを組み込んだ最新版の四面会議システムである(補遺参照)。

 四面会議の具体的な手順については、(3)で触れることにするが、その前に、この方法論がいまに至るまでにいろいろな経緯と改善・進化が積み上げられてきたことをスケッチしておこう。

(2) 四面会議の発展の歴史

  • 1980年代中盤 鳥取県智頭町のCCPT(Chizu Creative Project Team) のリーダーである寺谷篤志氏(当時 智頭・那岐郵便局長)がその祖型を考案し、「模造紙会議」と呼んでいた。チームの人たちに絶対に失敗の許されない計画を作り実行することを会得させるための計画技法として用いていた。このようにもともとはかなりのトップダウン型の技法だった。
  • 岡田(当時・鳥取大学社会開発システム工学科教授)はその特長とともに限界を指摘する。むしろ参加・参画型計画技法として進化させていくことを目指すことにした。名称も「四面会議システム技法」と変えた。
  • Stage 2 にwin-win debateとwin-win逆転debateを付け加えてゲーム感覚の仕掛けを導入。
  • Stage 1を付け加える。問題の共同発見、現状診断、ビジョンづくりなどの仕掛けを組み込み、より水平な参加・参画型計画支援技法へと拡張・発展を図る。
  • Stage 0 に、人々が自然に居合わせられる仕掛けづくりのプロセスを組み込むことで、コミュニカティブ・スペースづくりとBE-CAUSE process modelを組み込むように拡張した。
  • 国際的なシステム科学・意思決定科学(Group Decision and Negotiation)などの分野で査読論文として掲載される2)。学術的価値を高めるとともに、実践成功事例を多彩に開発して今日に至る。
  • 適用テーマも、防災、環境、交通、福祉や過疎問題、まちづくり等多様な分野にわたる。国際的な適用事例も多く、特にインドネシア、韓国、インド、ネパールなどで活用されている。
  • 適用地域・国も、日本、韓国、インドネシア、インド、ネパール、英国等に広がっている。
  • 国連大学(東京)やJICAの研究プログラムとしても岡田が講演・講習を行ってきている(2010年ごろから現在にいたるまで)。
  • 大学の授業にも取り入れられている(関西学院大学、京都大学、鳥取大学、熊本大学、兵庫県立大学、同志社大学等)。

(3)四面会議システム(最新版)の手順

a 居合わせづくり(BE Process): Stage 0

自然に人が居合わせるきっかけづくりをする。


b.前さばき(Framework):Stage 1

問題(構造)の認識の共有と、皆で目指したいビジョンや目標・方向性の発見と絞り込み。


c.本さばき(Teamwork): Stage 2

皆で始める事起こしの共同(協働)行動実践計画づくり。
協働作業プロセスと結果としての共同作品(四面会議図の完成)。


d.後さばき(Manifesto-work): Stage 3

地域の人や関係者も招待して、四面会議図にもとづく段階的実践行動計画表についてプレゼンをする。質疑応答を経て必要なら微修正をして四面会議図を完成し確定する。「私たちはこうやります宣言」(署名と写真撮影も含む)を全員で行い、完了する。


 なおこのようにして完成した四面会議図にもとづいて行動実践するとともに、随時結果を見直す「共に居合わせる寄り合い」を続けることが不可欠である。随時、四面会議図はバージョンアップしながら、当初の計画を適応的・順応的に進めていく仲間づくりができるのである。

具体事例の紹介:「京都のまちの災害文化をデザインしてみませんか」
~四面会議システムワークショップ(2016年度京都大学デザインスクールの企画)として~

 「京都は防災に特化したいろいろな知恵が伝承されています。皆さんの周りに存在しているけれども、なかなか気づかない京都の「災害文化」に触れてみませんか?そのうえで、なお、解決しない課題に立ち向かってみませんか?」という呼びかけで20人ほどの大学生や一般人が出席した(図-3)。筆者のほかに四面会議の専門家や京都朱八地区の自主防災組織の有志の方がファシリテータやガイド役として加わった。委細は省略するが、Be There Together とEnjoy and Exciteのプロセスから始めたBECAUSE プロセスの効果もあって仲間意識が盛り上がった。結果的に居合わせた人たちは全員、テーブルから床に四面会議図を移して車座になってどんどん融合するような展開が生まれた様子が分かるであろう。

図-3 京都のまちの災害文化をデザインしてみませんか四面会議ワークショップ
(京都大学サマーデザインスクール 2016|Kyoto University Summer Design School 2016)
図-4 床に車座になって打ち解けてつながり合う場が生まれた様子(1)
図-4 床に車座になって打ち解けてつながり合う場が生まれた様子(2) :四方からビデオでモニター・記録

 なお四面会議が開発・進化してきた拠点は、既述したように鳥取県智頭町の日本ゼロ分のイチ村おこし運動が行われてきた現場であった。その実際については私の著書3)をぜひ参照されたい。このほか、インドネシアのメラピ火山山麓地域コミュニティに実際に適用し、大きな国際技術移転の効果・成果が得られた実例1)もあることを付記しておきたい。

むすび

最後に以下の二点を指摘しておこう。

  • 市民参加や当事者参加から入っても、結果的に「消極的な参加」になることも少なくない。であれば、ここで紹介したような参加の敷居をはじめからずっと低くして仲間づくりをする方が効果的であろう。たとえささやかでも仲間同士で共に作り上げていくことに積極的に参画する体験をすることができる。後者のアプローチを目指す方が「積極的な参画」になるという発想転換が必要であろう。この意味で、四面会議システムは今後もっともっと普及してほしいと考える。大学教育にも活用されるよう私なりに支援していきたい。
  • 人は望まないのに、はっと気付くと大変な場面に居合わせていることがある。
    事故や災害がその典型である。そこからどう立ち上がり、共に携えて仲間として地域を復旧・復興させるのか? 大変に皮肉なことであるが、そのような悲惨な場面に共に居合わせた人たちは既に当事者であり、共に変えていく仲間同士でもあるのだ。であれば、このような局面に置かれた方をサポートする形でコミュニカティブスペースづくりに外部から協力しながら、地域復旧・復興の共に作り上げる参加型アプローチが切実に求められるのである。仮に事故や被害が比較的軽微であっても、そこに居合わせた者同士がそれをきっかけにいずれ起こる可能性の高い事故や災害に気づき、事前に備える小さな行動変容などを促す。そのような社会変革を共に成し遂げていく営みにできるはずだ。四面会議システムの方法論はこのような目的に適用することが可能である。たとえそのまま使えなくてもその方法論の骨子や技法には、そのノウハウを学び体験知を紡いでいくアイディアが詰まっているに違いない。

参考文献

  • 1)羅貞一・岡田憲夫(2011):『メラピ火山地域コミュニティの参加型防災行動計画づくりを支援する四面会議技法』日本シミュレーション&ゲーミング学会全国大会論文報告集2011年秋号 25-26.
  • 2)Okada, N., M. Kilgour, L. Fang, and A. Teratani (2012): “The Yonmenkaigi System Method: An Implementation-Oriented Group Decision Support Approach,” Volume 22, pages 53–67.
  • 3)岡田憲夫(2015): 『ひとりから始める事起こしのすすめ-地域(マチ)復興のためのゼロからの挑戦と実践システム理論 鳥取県智頭町30年の地域経営モデル』, 関西学院大学出版会.

補遺

BE-CAUSE Risk Communication Model

B. Be there! そこで居合わせよう!
E. Enjoy, excite, empathize わくわくしよう! 共感しよう!

C. Build Confidence and credibility 信頼の基盤を作る
A. Aware risks リスクに気づく
U. Understand risks リスクを理解する
S. Solution 解決策を作る
E. Enactment 実行する