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コロナ後の社会へ - Column - リスク共生社会創造センター|横浜国立大学

Column

Column 01 リスク共生の視点から新型コロナ対応を考える

危機時におけるリスクマネジメント第7回(2020.06.24 掲載)コロナ後の社会へ

野口 和彦IASリスク共生社会創造センター 客員教授(前センター長)

新型コロナ感染症対応もフェーズが変わってきた。
新型コロナ後の世界では、リーモート化が進む等の新たな生活や産業の変革が進む事が言われている。ここでは、個別の変化事象では無く、リスクマネジメントの視点で、コロナ後の世界で必要なことを整理してみたい。

新型コロナ感染症対応から何を学ぶか

可能性を知りながら準備ができていなかった今回の感染症への対応は、状況に応じてこれからも続いていくが、今の時点でこれまでの対応を一度振り返ってみることも、今後の対応のあり方を考える上で大切であろう。

今回の対応で、まず反省しなくてはならないことは、以前よりパンデミック対応の必要性が認識されており、しかも東京オリンピックの開幕を控えている状況において、パンデミックの初期において、対応が整然と行われなかったことである。

対応を難しくした要因は幾つか存在するが、やはり「パンデミック体制が整備されていなかった」と言わざるを得ない。ここで考えて行きたいのは、そのことを非難することでは無く、何故対応が遅れたかということを考えることである。

パンデミックの可能性を知らなかったわけでは無いので、やはり、その準備の必要性に対して楽観視があったと言わざるをえない。何故か?

社会リスクの対応で難しいのは、多様なリスクに対してその優先順位の判断である。どうしても、既にその脅威が明らかなリスクへの準備が優先される傾向にあり、常に、社会に大きな影響を及ぼすリスクに対する準備を怠らないことである。

リスクの捉え方を拡げよう

リスクは、リスク管理(risk control)の視点とリスクマネジメントの視点では、その捉え方が異なる。

これまで、個々の専門的立場で議論され対応が行われてきたリスクは、リスク管理の視点で、例えば、感染リスク、爆発リスクのように防ぎたい個々の現象をリスクとして捉えるもので、専門・技術的視点の捉え方である。

一方、社会や組織経営としてのリスクマネジメントでは、施策や活動の結果発生する影響をリスクとして捉えることになる。

今回の新型コロナ対応を考えると、「グローバル化政策の持つ様々な可能性」や「感染防止対策の持つ経済への影響」等、施策の持つ様々な可能性を考えておく必要がある事がわかる。経営の視点では、それぞれのリスクを精度良く把握する前に、まずどのような可能性があるかを整理する必要がある。

危機時には、個別のリスク対応を考える前に、「何をリスクとして考えれば、危機対応を適切に行えるか」を知る必要がある。その為には、これまでの個々の専門の視点からみたリスク管理の方策に加えて、リスクマネジメント視点のリスクの捉え方が必要であることがわかる。

優先順位を考え、総合戦略に基づく対応が出来る仕組みを構築しよう

社会の様々なリスクに対応をしようとすると、リソースが限られている為、必要な対応の全容を把握した上で、優先順位の高い順番に対応していく仕組みを構築する必要がある。

危機時には、実施して欲しい対策がたくさん出てくる。一つ一つの対策は、必要なものであり、望ましいものであることは違いない。しかし、異なる視点で、それぞれが対策の必要性を主張すると、結局リソースが足りないばかりか、要求した対策が実施されない事への不満が大きくなり社会に混乱をもたらすことになる。

さらに、個別のリスクに対する対策は、互いにその効果を相殺する場合がある。 したがって、社会に大きな影響をもたらす危機時の対応では、個別の対策の集合では無く、総合戦力に基づく対応が必要となる。

この仕組みの構築には、個々の専門領域のリスク管理の徹底と共に、社会としてのリスクマネジメントの仕組みの構築が必要になる。

この仕組みには、行政のリスク対応組織の高度化と共に、危機時における総合対応への市民の理解が重要であり、マスコミの報道のあり方もその活動の成否に大きな影響を及ぼす。

新たなチャレンジを、イノベーションを適切に行う為の仕組みの構築を

世界が大きく変わろうとしている時には、これまでの対応の精度を上げるだけでは対応ができない事が多くなり、新たな仕組みへのチャレンジが必要となる。

そのチャレンジは、産官学のあり方そして生活様式の全ての面で新たなステップに取り組む事になるであろう。個々の技術イノベーションではなく、社会イノベーションが必要となるのである。

しかし、この社会イノベーションには、その効果があればあるほど、「好ましくない影響」が出てくる可能性も大きくなる。社会には、一旦壊してしまうと戻らない事も多い。

我々は前に進まなくてはならない。そのためには、イノベーションに対するリスクマネジメントを社会制度として取り組む必要がある。 現代のリスクマネジメントは、「好ましい影響」を大きくし、「好ましくない」影響を小さくする社会運営の仕組みである。

これまでの個々のリスク管理から、社会のリスクマネジメントにより、イノベーションを行おう。

イノベーションを適切に行う為には、追い込まれてから急いで立ち上げても上手くいかない。しっかりとした準備が必要になる。 今こそ、走り始める時である。

おわりに:伝統とは絶え間ない変化によって創り上げられる

新型コロナ感染症対応を対象として、危機時のリスクマネジメントについて7回にわたり論じてきた。

これらの論は、本センターが提唱している「リスク共生」の考え方に基づいている。

社会は、変革を望んでいるようで実は保守的である。これまでの方法で重大な問題が発生しない限り、これまでの方法を変えようとしない。

しかし、今回の危機の発生により、様々な課題が明らかになってきた。もう、そこから目を背けるわけにはいかない。

日本には、長く続いている企業が多い。これらの企業をみてみると、共通していることがある。それは、常に時代に合わせて、時には時代を先取りをして変わり続けていることだ。 伝統は、変わり続けなければ、創れない。 新型コロナ対応を契機として、改めて、日本の伝統を創り続けていきたいと強く感じている。

我々一人一人が、社会を構築している。社会とは、誰かが創っているものではない。 社会とは、我々一人一人の生き方であり、意思である。