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社会の在り方が変えるリスクコミュニケーション - Column - リスク共生社会創造センター|横浜国立大学

Column

Column 03 リスク共生社会における新しいリスクコミュニケーションの枠組

第4回(2022.11.09 掲載)社会の在り方が変えるリスクコミュニケーション

松永 陽子横浜国立大学 環境情報学府

 これまでに、リスクコミュニケーション「躓きの石」として、リスクコミュニケーションに取り組もうとしたときの混乱の原因となる多様性や、以前から指摘されているリスクコミュニケーションの誤解及び課題を紹介した。

 加えて社会の在り方もリスクコミュニケーションに強く影響を与える。

文化・価値観

 リスクコミュニケーションは、民主的なプロセスであり、多様なステークホルダーが関わる ものである。そして、ステークホルダーの有する価値観や文化によって、リスクコミュニケーションの姿は変わる。

 例えば言葉として表現することを大事にするローコンテクスト文化圏と、言葉以外の含意や態度、互いの社会的地位等がコミュニケーションに大きく影響を与えるハイコンテクスト文化圏では何がよいコミュニケーションであるかが異なる。

 リスクコミュニケーションにおいて重要な「安全」に関する価値観も、文化圏によって異なり、日本人は「水と安全はタダ」と思っていると40年前の「日本人とユダヤ人」で指摘されている。更には、対話イベントにおけるファシリテーターの「中立性」に対して懸念を表明されたこともある。ファシリテーターだけでなく情報提供者についても、同様に、専門的知識を有し、かつリスク問題に関わる何らかの利益相反がないことを期待する声もあった。

 社会における暗黙の了解や風習を含めた「考え方のクセ」を考慮に入れた上で、参加者と実施者の双方を含む関係者にとって無理のないリスクコミュニケーションの在り方を検討・設計し、丁寧に関係者と共有することが非常に重要である。

意思決定の在り方

 文化・価値観の中でも、特にリスクコミュニケーションに大きな影響を与えるのが「意思決定の在り方」である。近年、EBPM(Evidence Based Policy Making、証拠に基づく政策立案)やEBDM(Evidence Based Decision Making)が求められるようになった。その時になんとなくよく見えるものに飛びつくのではなく、本当に効果があるかを検証して合理的根拠に基づいて判断していくという思想である。

 リスクコミュニケーションは、科学的知見と政治を含む社会の価値観に基づく意思決定を支援するものであり、EBPM、EBDMのような意思決定プロセスを伴うことでよりよいリスクコミュニケーションが可能になる。また、リスクコミュニケーションを行うことでEBPM、EBDMの効果及び信頼性向上が実現できる。

 意思決定のプロセスや意思決定の際に考慮する要素の不透明度が高い場合、リスクコミュニケーションの成否は、リスクコミュニケーションを行おうとする企画・実施者(組織)の信頼性の高低や個々の参加者が有する価値観との親和性の有無に大きく左右される。

 その結果、馴合いか、敵対か、無関心かという極端な参画方法を選択せざるを得なくなる可能性がある。社会において異なる役割・立場・価値観を尊重した、監視・確認、批判、あるいは委任という建設的な参画の形が選択できるよう、意思決定プロセスと意思決定の根拠の公開性についても見直していくことが重要である。

リスクの複雑化・不確実化

 海上保険のルーツは14世紀のイタリアに存在する。リスク概念が安全管理に取り入れられたのは1950年代の放射線防護分野である。特に原子力や放射線を含む科学技術の発展に伴い「リスク」は社会で広く扱われるようになった。

 近年では、グローバル化や情報通信技術によって、リスクの相互依存性やリスクの影響範囲が拡大している。また、人権や倫理に対する意識の変化やAI(人工知能)技術等の発展により、これまでリスクとみなしてこなかったこともリスクとみなされるようになった。

 身近なところでは、生命の損失や余命の長さだけではなく、心理面の影響や価値観を重視するQOL(Quality Of Life、生活の質)やウェルビーイング(well-being)なども一般的になっている。

 リスク問題を検討する時には、関係する様々なリスクの存在やトレードオフを含む相互影響も考慮する必要がある。また、人によって、特に脅威を覚えるリスクの種類や優先順位の差がある ことにも留意が必要である。

情報化社会におけるSNSの発展

 25年前は、対面の交流と電話、ファックス、手紙などを通じて、地縁あるいは血縁で人と繋がる時代だった。しかし、インターネットが広く社会に利用されるようになり、特にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の機能拡大と、社会システムへの導入が目覚ましく、地域と多様に関わる「関係人口」という言葉も生まれた。

 SNSは、旧来のコミュニケーション手段の代替に留まらず、ビジネスでの利用、マーケティングにおける活用が進む一方で、SNSを通じてフェイクニュースが発信・拡散されたり、他者への攻撃手段として利用されたりもする。また、匿名で自由に意見を発信することができる、誰でも意見が言える社会の中で、悪意ある攻撃と、権利や責任に基づく意見・批判をどこで区別するかも難しい。特にリスク問題ではリスクに関してより大きな影響がある集団の意見を念入りに収集しリスクマネジメントに反映すべきだが、実はリスクの影響が少ない集団に声が大きい関係者が存在する可能性もある。

 加えて、近年では「透明性」に対するニーズも高まっている。特に行政では、会議や対話の記録は公開が望ましいとされる。だが、そこに個人情報が含まれることで、インターネット上に公開された情報をもとに、遠隔地から個人を特定できてしまうおそれもある。

 正しい情報の発信、適切な意見の収集、心理的に安全な対話の実現にあたっては、SNSの適切な利用とSNS上で生じうるトラブルへの対応の両方が必要となる。

参考文献

  • 日本リスク研究学会編. リスク学辞典. 丸善出版. 2019-6
  • 内閣府. 内閣府におけるEBPMへの取組. 2022-6(最終更新). https://www.cao.go.jp/others/kichou/ebpm/ebpm.html(参照 2022-10-25)
  • 大向一輝. SNSの進展. 通信ソサイエティマガジン.2020, No. 52,252-256