プロジェクト概要 - OVERVIEW -

イノベーションの積極的な創造性と更に加速的なプロジェクトであること

本プロジェクトは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program: SIP)の「エネルギーキャリア」の「エネルギーキャリアの安全性評価研究」に採択された課題です。

科学技術イノベーションは、経済成長の原動力、活力の源泉であり、社会のあり方を飛躍 的に変え、社会のパラダイムシフトを引き起こす力を持ちます。しかしながら、わが国の科学技術イノベーションの地位は、総じて相対的に低下しており、厳しい状況に追い込まれています。総合科学技術・イノベーション会議は、「イノベーションに最も適した国」を作り上げていくための司令塔として、その機能を抜本的に強化することが求められています。
科学技術イノベーション政策に関して、他の司令塔機能(日本経済再生本部、規制改革会議等)との連携を強化するとともに、府省間の縦割り排除、産学官の連携強化、基礎研究から出口までの迅速化のためのつなぎ等に、より直接的に行動していく必要があります。このため、平成26 年度予算において、「科学技術イノベーション創造推進費」(以下、「推進費」という。)が創設され、内閣府に計上されました。推進費は、総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能強化のための重要な取組の一つであり、府省の枠を超えたイノベーションを創造するために不可欠な政策手段です。今、国家的に重要な課題の解決を通じて、我が国の産業にとって将来的に有望な市場を創造し、日本経済の再生を果たしていくことが求められています。このためには、各府省の取り組みを俯瞰しつつ、更にその枠を超えたイノベーションを創造するべく、総合科学技術・イノベーション会議の戦略推進機能を大幅に強化する必要があります。その一環として、鍵となる技術の開発等の重要課題の解決のための取り組みに対して、府省の枠にとらわれず、総合科学技術・イノベーション会議が自ら重点的に予算を配分する SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)が創設されました。この原資は、推進費から充当されます。

エネルギーの大半を海外に依存している日本にとって、海外からの化石燃料依存を低減し、CO2を削減する事で地球温暖化防止に貢献するような社会の構築を日本が模範として行うことは重要です。そこで期待されるのが、化石燃料から水素を取り出し、発生する CO2を固定化する方法、再生可能エネルギーを水素に転換して利用する方法など、水素エネルギーの利用拡大です。水素は、タービン・エンジンなどでの直接燃焼、または燃料電池などで電気に変えて利用することができます。燃料電池は日本が世界に先駆けて実用化・商用化した製品であり、2009年に発売された家庭用燃料電池は2015年3月末には、全国で12万台以上が販売されており、さらに2014年12月からは水素燃料電池車(FCV)の販売が開始されています。

ドイツのガソリンスタンドの様子
ドイツのガソリンスタンドの様子

また、将来的に日本国内では供給に量的限界がある再生可能エネルギーを海外から調達し、水素に変えて貯蔵・輸送することも必要になると見込まれ、国内外での水素製造・貯蔵・輸送に関する経済性評価の検討も開始されています。 海外において、例えばドイツでは2023年までに水素ステーションを400箇所整備する計画が発表された他、デンマークでは風力発電の余剰電力を水素に変換して利活用する実証試験が、イタリアでは水素専焼発電の実証試験などが行われています。
また、北米においても、業務用燃料電池の導入や水素ステーション整備計画が検討され、さらには政府支援を背景に燃料電池フォークリフトの導入が増えつつあります。アジアにおいても、韓国では現代自動車が2013年に燃料電池自動車のリース販売を開始しており、水素ステーションの整備計画も発表されています。このように、2015年からのFCV市場導入に向けて国際的競争が始まっており、日本として国際競争においてリーディングポジションを取るためにも、今まさに水素利用社会に向けた取組を強化、加速していく必要があります。

水素はクリーンであることに加え、化石燃料だけでなく再生可能エネルギーからも製造が可能で、エネルギー供給源の多様化にも寄与します。ただし、これらのメリットだけでは普及しません。20年ほど前に再生可能エネルギーから水素を製造し、運搬、貯蔵、利用する「WE-NET構想」がスタートしましたが、水素利用に飛躍的な進展がないのが現状です。
その原因の一つはコストであるとされています。水素の製造、輸送・貯蔵はコストがかかり、現在、供給されている水素の価格はガソリンの数倍となっています。このため、水素を効率よく低コストで生産する技術の研究開発が必要です。また、水素は常温常圧では気体であり、輸送・貯蔵が難しく、効率よく輸送・貯蔵する液体水素やエネルギーキャリア技術の研究も必要です。さらに、水素の利用用途を拡大できれば大量輸送による規模の経済が働き、水素価格の低下につながります。したがって、定置用燃料電池、燃料電池自動車に加えて、タービン、エンジンなどでの水素や水素キャリアの直接燃焼といった水素エネルギーの利活用拡大に資する研究開発・実証も重要となります。

さらに、水素が広く国民・社会から受け入れられるためには、高圧水素や液体水素、アンモニア、メチルシクロヘキサン等のエネルギーキャリアについて、陸上・海上の運搬・貯蔵等に 関する安全性に関する研究と、安全基準の検討、実証試験等が必要です。これらの研究開発や、安全性に関する研究、さらには、これらを統合したシナリオ、戦略の策定等は文部科学省、経済産業省、総務省(消防庁)、国土交通省、地方自治体、大学、企業、公的研究機関等の連携や施策の進度調整が不可欠であり、内閣府が事務局としてSIPを通じて総合調整機能を発揮することが期待されています。

我が国の水素エネルギーに関連した材料、触媒あるいは分析・解析技術、ならびに燃料電池を始めとした利用技術などの基本的技術は世界的に優位であり、本課題の発展は関連産業の発 達に寄与するものと見込まれています。
水素並びに水素キャリアと、その利用技術に対する国民の理解を醸成し、水素エネルギーをエネルギー源の多様化によるエネルギーセキュリティーの向上と低炭素社会に向けて中心的役割を担う主要な二次エネルギーと位置づけ、水素利用社会実現に向けた国民的コンセンサスを形成していきます。

水素の製造、輸送・貯蔵、利用のチェーンの中で、需要側の利用方法に応じた多様なパスを検討することが重要です。移動距離や運搬量によっては、水素に転換するよりも化石燃料のまま輸送・貯蔵する方がよいか、電気のまま送電・蓄電する方がよいか、あるいは、熱のまま搬送・蓄熱する方が望ましい場合もあります。また、需要側の状況によっては、例えば定置用燃料電池や燃料電池自動車などは分散型の水素製造が、水素発電には大規模な水素の調達が適している可能性もあります。本課題では、将来の技術革新とエネルギーコストを予測し、どのような場合に水 素利用が有利となるかを見極めた上で、新しいエネルギー社会のシナリオを策定し、研究開発計画に反映して、研究開発を実施します。シナリオの策定にあたっては、経済産業省が進めている「水素の製造、輸送・貯蔵、利用に関するロードマップ策定(資源エネルギー庁「水素・燃料電池戦略協議会」)」、「トータルシステム導入シナリオ研究(経済産業省事業「再生可能エネルギー貯蔵・輸送等技術開発」)」と連携し、統合的に進めていきます。

エネルギーキャリア(メチルシクロヘキサン等)の漏洩等の事故解析、大気拡散、リスク評価等を実施することで、貯蔵・供給設備について、リスクを定量化することにより、許認可(消防法、高圧ガス保安法等)、安全対策、リスクコミュニケーションのための基礎データを構築します。また、キャリアの評価システムを構築し、評価、体系化を実施し、開発へのフィードバックおよび公表を実施します。

  1. 社会要求を基に、最新科学技術システムに関する安全要件を定めるスキームを構築することができます。
  2. これまでの主としてハザードからリスクを抽出するという工学的リスクの分析手法に加え、社会リスクから必要な分析シナリオを抽出するという新たな工学的リスクの分析手法を確立することができます。
  3. 既存の工学的リスク分析手法を以下のように深化することができます。
    • 事業者が使用できる事故発生確率推定手法の確立と定量的な発生確率の導出
    • 排出シナリオと排出量の評価手法の確立
    • フィジカルハザード評価指針の作成
    • 急性影響推定ツール、有害性評価指針の作成
    • 建物・人口・ステーション立地データベース、交通データベースの作成
    • ステーション立地モデルの確立
    • リスク評価書作成と公開

本研究での成果であるリスク評価に関わる各種ツールとリスク評価書は、2018 年度までに順次公開され、行政による法規制や事業者のリスク管理に活用されることが期待できます。

  1. 研究開発成果として得られる事故発生確率推定ガイダンス、急性影響推定ツールや排出シナリオ文書、被害・リスク評価指針等は印刷後無償で公開され、事業者が自ら水素エネルギーキャリアに関するリスク評価を実施することができます。
  2. 市民の受容に関する考え方も取り入れた1.のリスク評価に必要な許容リスク基準に基づき、安全を確保する上で重要な機器とその要求性能を明らかにする。それらを用いて事業者は適切な安全対策を効率よく取り入れることができます。
  3. 提案するリスク基準は、設備に関する安全要件だけでなく、保守運用に関する安全要件も含まれており、周辺住民は事業者とのリスクコミュニケーションを通じて災害が生じた際の危機管理力も含めて判断することができます。
  4. 1の成果を活用することで、各種エネルギーキャリアに対する合理的安全が確保可能な設備の技術基準案が策定され、高圧ガス保安法、消防法、建築基準法等の規制適正化が加速されます。
  5. 2020年の普及期に間に合うように、水素ステーションのコストが適正化され実用化が達成されます。
プロジェクト5年計画図

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