リスク共生社会創造センター

2020年6月12日

リスク共生の視点から見た新型コロナ対応

重症化リスクの計量について
「第5回 COVID-19 重症化リスク計算の説明変数候補

横浜国立大学 保健管理センター
教授  大重 賢治
准教授  藤川 哲也


2020年5月22日、ニューヨーク大学(NYU)から、入院に至らなかった新型コロナウイルス感染者も含めた、現時点では最大規模となるコホート研究の結果が報告された1)。ニューヨークは、感染者の多いアメリカ合衆国の中でも、epicenter(感染拡大の中心地)と呼ばれるほど、爆発的な感染拡大が見られた都市である。このNYU論文を参照しながら、COVID-19の重症化リスク計算の説明変数候補について考察する。


NYU論文 調査概要

対象地域は、ニューヨーク市とロングアイランドであり、調査対象者は、2020年3月1日~4月8日の期間にNYUの関連医療施設でPCR (polymerase chain reaction) 検査を受け陽性であった5,279人である。リスク評価は、PCR陽性者の入院リスク、および入院患者の重症化リスクについて行っている。


NYU論文 分析1:PCR陽性者の入院リスク

入院の有無(2,741人が入院有り、2,538人が入院無し)を目的変数とし、多変量ロジスティック回帰分析を行っている。説明変数の中で統計学的に有意であったのは、年齢、性別、人種(の一部)、喫煙歴、肥満度(BMI)および基礎疾患の心不全、高脂血症(脂質異常症)、高血圧症、糖尿病、慢性腎臓病となっている。

これまでにも、COVID-19は、「年齢が高くなるほどリスクが高まる」、「男性の方がリスクが高い」、「肥満があるとリスクが高い」、などと言われてきたが、NYU論文でも入院リスクに関して同様の結果が出ている。予想外の結果としては、以前喫煙していた、または現在喫煙している人の方が、非喫煙者に比べて入院リスクが低いという結果が出ている。ただし、本調査では、喫煙歴不明な人数が多く、またその人たちの入院リスクが高いことから、情報バイアス(正確な情報が提供されていないゆえの偏り)が生じている可能性がある。基礎疾患として、「心不全」、「高血圧症」、「糖尿病」、「慢性腎臓病」を持つ人の入院リスクが高くなるとの結果が出たのに対し、「高脂血症(脂質異常症)」を持つ人の入院リスクは低いとの結果が出た。興味深いものがある。


NYU論文 分析2:入院患者の重症化リスク

入院患者の2,725人において、重症に分類される転帰となったのは990人(人工呼吸器装着647人、死亡もしくはホスピス転院241人、人工呼吸器は着けていないがICUに入院中102人)である。 重症化の有無を目的変数とし、多変量ロジスティック回帰分析を行っている。

説明変数の中で統計学的に有意であったのは、感染した時期(遅いほどリスクが低い)、年齢(65歳以上でリスクが高い)、人種(一部でリスクが低い)、喫煙歴(不明においてリスクが高い)、肥満度(BMI 40以上でリスクが高い)、基礎疾患に心不全がある場合(リスクが高い)であり、検査項目では、SpO2値(低いほどリスクが高い)、クレアチニン値(高いほどリスクが高い)、リンパ球数(500/μL未満でリスクが高い)、CRP (C reactive protein) 値(高いほどリスクが高い)、D-dimer値(高いほどリスクが高い)、プロカルシトニン値(0.5ng/mLを超えるとリスクが高い)、トロポニン値(高いほどリスクが高い)となっている。

SpO2とは、動脈血酸素飽和度のことで、一般的に96%以上が正常の基準値とされ、90%を下回ると呼吸不全となっている可能性が高くなる。


図1 SpO2モニター(パルスオキシメーター)
指を挟むだけで、酸素飽和度が測定できる。表示は、SpO2が99%、脈拍が63回/分であることを示している。

リンパ球は、白血球の種類の一つで、通常、白血球全体の20~50%を占める。白血球は成人の基準値が3500~9000/μLとされており、リンパ球数は1μLの成人の血液中に通常1500以上みられる。NYU論文では、1200/μL以上を基準としている。

クレアチニンは腎臓の機能が低下すると血液中に増える物質である。

CRP、プロカルシトニンは炎症を示すマーカーである。

D-dimerは、フィブリン溶解現象の代謝産物で、血栓リスクのマーカーとなる。

トロポニンは心筋に障害があった時に血液中に出現する物質である。


COVID-19の重症化リスク計算の説明変数の候補

NYU論文や、その他、重症化因子について報告された論文2)等により、以下の項目は説明変数候補になりうると考えられる。


属性:

  • 年齢
  • 性別

症状:

  • 呼吸器症状(咳、息苦しさ、血痰、等)
  • 循環器症状(動悸、不整脈、等)
  • 消化器症状(下痢、嘔吐、等)
  • 上気道炎症状(鼻汁、咽頭痛、等)
  • 味覚・嗅覚障害

計測:

  • 体温
  • 脈拍
  • 血圧
  • SpO2

画像:

  • 胸部X線所見
  • 胸部CT所見

血液検査:

  • 末梢血液検査(赤血球、白血球、血小板)
  • 炎症関連(CRP、フェリチン、プロカルシトニン)
  • 凝固・線溶系検査(PT、APTT、ATⅢ、FDP、Dダイマー)
  • 腎機能検査(BUN、クレアチニン)
  • 肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)
  • 脂質検査(総コレステロール、LDL-コレステロール、中性脂肪)

基礎疾患

  • 高血圧症(薬物治療の有無)
  • 糖尿病(薬物治療の有無)
  • 心臓病(薬物治療の有無)
  • 脂質異常症(薬物治療の有無)
  • 閉塞性肺疾患(薬物治療の有無)
  • 喘息(薬物治療の有無)

生活習慣

  • 喫煙
  • 飲酒

その他

  • BCG接種歴
  • インフルエンザ予防接種歴
  • 新型コロナウイルス抗体価

■■ 次回予告  「第6回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク評価とモニタリング~」



1) Christopher M Petrilli,et al. Factors associated with hospital admission and critical illness among 5279 people with coronavirus disease 2019 in New York City: prospective cohort study. BMJ 2020;369:m1966
https://www.bmj.com/content/369/bmj.m1966

2) 埼玉県立循環器・呼吸器病センター 呼吸器内科. 新型コロナウイルス肺炎患者における重症化因子の検討. 2020年3月31日公開
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200331_1.pdf


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関連サイト

■■ 著者:大重 賢治 (横浜国立大学 保健管理センター 教授)

第1回 重症化リスクの計量について ~はじめに~

第2回 重症化リスクの計量について ~オープン・フェア・ベスト~

第3回 重症化リスクの計量について ~コールトリアージ生命危険確率の説明変数~

第4回 重症化リスクの計量について ~コールトリアージの生命危険確率計算~

第5回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク計算の説明変数候補~

第6回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク評価とモニタリング~


■■ 著者:野口 和彦 (IAS リスク共生社会創造センター 客員教授(前センター長))

第1回 【総論】 コロナ感染の状況の変化により社会の運営の優先順位を明確に定めよ

第2回 危機時におけるリスクマネジメント(その1) 何を今の着目リスクとして考えるか
~多様なリスクを検討し、対応を判断した仕組みを説明せよ~

第3回 危機時におけるリスクマネジメント(その2) リスクを分析する前に整理すべきこと
~リスクは状況によって変化する~

第4回 危機時におけるリスクマネジメント(その3) リスクの不確かさをどのように考えるか  
~[リスク分析・評価の要点 その1] 検討するリスクの特定と捉え方~

第5回 危機時におけるリスクマネジメント(その4) リスクの不確かさをどのように考えるか  
~[リスク分析・評価の要点 その2] リスクの分析・評価を考える~

第6回 危機時におけるリスクマネジメント(その5) リスクへの対応を考える

第7回 危機時におけるリスクマネジメント(その6) コロナ後の社会へ


■■ 著者:宇於崎 裕美 (IASリスク共生社会創造センター 非常勤講師/エンカツ社 代表取締役社長)

第1回 新型コロナウイルスに関する危機管理広報 情報公開とプライバシー保護のバランス

第2回 新型コロナウイルスに関する危機管理広報 偏見と差別を防ぐコミュニケーション

第3回   新型コロナウイルスに関する危機管理広報 ステークホルダーの共感が得られる発表文書の書き方


■■ 著者:中山 穣 (IASリスク共生社会創造センター 非常勤講師/東京大学 環境安全本部 助教)

復帰後の社会像を議論し、リスク対応を検討し始める



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