リスク共生社会創造センター

2020年6月4日

リスク共生の視点から見た新型コロナ対応

重症化リスクの計量について
「第4回 コールトリアージの生命危険確率計算

横浜国立大学 保健管理センター
教授  大重 賢治


医療に関する研究の分野では、解析にロジスティック回帰分析がよく用いられる。この分野では、1 or 0で表される事象が多いことが理由としてあげられる。 例えば「疾患あり」を「1」、「疾患なし」を「0」と標識し、回帰分析の目的変数(従属変数)とした上で、その疾患の原因(もしくは危険因子)を説明変数(独立変数)とし、原因が疾患発生に与える影響を計るのに用いられたりする。


ロジスティック回帰モデルは、



で表され、左辺が(対数)オッズを意味することから、相対的な危険度(オッズ比)が求められることも、汎用されている理由の一つである。臨床的にリスクを把握しやすいのである。この場合、Pは事象が発生する確率を意味し、αは定数、βは説明変数(X)の係数である。


ここで(1)の式をPについて置き換えると、



となり、事象が発生する確率(P)を求めることができる。

2007年5月に、集中的に救急通報(119番通報)の情報収集が行われたことは、第3回のコラムで既に述べた。その時に得られたデータ(Y0507データ)にて、通報情報の計量的な評価が行われた。

評価にはロジスティック回帰分析を用いている。回帰分析の目的変数は、救急搬送患者で「死亡」もしくは「重篤」であったものを1と標識し、それ以外の「重症」、「中等症」、「軽症」と判定されたものを0とした。回帰分析による計量評価は、通報者の属性ごとに行った。説明変数となる情報は、「正常」を基準とし、状態の程度(カテゴリー)ごとに評価を行った。年齢に関する係数を表1に示す。年齢カテゴリーが上がるにつれて係数が大きく、すなわちリスクが大きくなっている。その他、呼吸に関する係数(表2)に加え、意識リスク、歩行リスク、表情(顔色、発汗等)リスク、体位(座位、臥位等)リスク、および通報者リスク(興奮・混乱等)に関する係数も多変量解析として同時に求めた。


表1 年齢の計量的評価(Y0705データより)

年齢
家族通報 第三者通報
0~4歳 0.000 0.000
5-14歳 0.000 0.000
15-39歳 1.590 0.816
40-69歳 2.385 1.224
70歳以上 3.180 1.632


表2 呼吸に関する情報の計量的評価(Y0705データより)

呼吸状態
家族通報 第三者通報
正常・問題ない 0.000 0.000
おかしい・苦しそう 0.935 2.129
呼吸していない 4.268 5.031
分からない 0.379 1.531


計量的評価で得られた数値(係数)を(2)の式に代入することによって、要救護者それぞれの生命危険確率(P)が得られることになる。これを生命危険の計量モデルとした。

図1は、Y0507データをもとに、計量モデルで用いられた要救護者の救急通報時の生命危険確率と、搬送先医療機関にて判定された重症度別の累積症例割合をグラフ化したものである。縦軸が生命危険確率を表し、横軸は、それぞれの重症度に該当する人数を100とした時の割合である。1つのポイントが1人の要救護者(=救急搬送患者)を表している。

生命危険確率は、「死亡」および「重篤」者において、それ以外のものよりも高く、「死亡」・「重篤」に至るものと「重症」・「中等症」・「軽症」者の間の識別に有用であることがわかる。生命危険確率10%以上の要救護者を「PA連携」の対象とすると、重篤と判定された患者の7割近くをカバーできることになる。


図1 計量されたリスク(生命危険確率)と累積症例割合 
119番通報時における緊急度・重症度識別プロジェクト調査より1)

コールトリアージ運用開始(2008年10月)以後もデータは自動的に蓄積されている。運用開始6ヶ月で、6万8千件余りの救急通報に対してトリアージが行われており、それらのデータもデジタルデータとして蓄積されていった。そのうち、61,027件の救急搬送のデータを再解析し、計量モデルの係数を更新した2)

蓄積されたデータを用いて、トリアージアルゴリズムの「ベスト」を目指す努力も行われた。例えば、ベイジアンネットワークモデルを用いた、さらに精緻なアルゴリズムが考案されている3)


■■ 次回予告  「第5回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク計算の説明変数候補~」



1)大重賢治 横浜ディスパッチシステムにおける119番トリアージアルゴリズム
救急医療ジャーナル N.88.75-80. 2007.12.}

2) Ohshige K, Kawakami C, Mizushima S, Moriwaki Y, Suzuki N.
Evaluation of an algorithm for estimating a patient's life threat risk from an ambulance call. BMC Emerg Med. 2009 Oct 21;9:21.
https://bmcemergmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-227X-9-21

3) 柚木翔太,濱上 知樹, 大重 賢治, 川上ちひろ,鈴木 範行. ベイジアンネットワークによるコールトリアージ判定の高精度化.
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) Vol. 132 (1), 61-67, 2012.


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関連サイト

■■ 著者:大重 賢治 (横浜国立大学 保健管理センター 教授)

第1回 重症化リスクの計量について ~はじめに~

第2回 重症化リスクの計量について ~オープン・フェア・ベスト~

第3回 重症化リスクの計量について ~コールトリアージ生命危険確率の説明変数~

第4回 重症化リスクの計量について ~コールトリアージの生命危険確率計算~

第5回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク計算の説明変数候補~

第6回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク評価とモニタリング~


■■ 著者:野口 和彦 (IAS リスク共生社会創造センター 客員教授(前センター長))

第1回 【総論】 コロナ感染の状況の変化により社会の運営の優先順位を明確に定めよ

第2回 危機時におけるリスクマネジメント(その1) 何を今の着目リスクとして考えるか
~多様なリスクを検討し、対応を判断した仕組みを説明せよ~

第3回 危機時におけるリスクマネジメント(その2) リスクを分析する前に整理すべきこと
~リスクは状況によって変化する~

第4回 危機時におけるリスクマネジメント(その3) リスクの不確かさをどのように考えるか  
~[リスク分析・評価の要点 その1] 検討するリスクの特定と捉え方~

第5回 危機時におけるリスクマネジメント(その4) リスクの不確かさをどのように考えるか  
~[リスク分析・評価の要点 その2] リスクの分析・評価を考える~

第6回 危機時におけるリスクマネジメント(その5) リスクへの対応を考える

第7回 危機時におけるリスクマネジメント(その6) コロナ後の社会へ


■■ 著者:宇於崎 裕美 (IASリスク共生社会創造センター 非常勤講師/エンカツ社 代表取締役社長)

第1回 新型コロナウイルスに関する危機管理広報 情報公開とプライバシー保護のバランス

第2回 新型コロナウイルスに関する危機管理広報 偏見と差別を防ぐコミュニケーション

第3回   新型コロナウイルスに関する危機管理広報 ステークホルダーの共感が得られる発表文書の書き方


■■ 著者:中山 穣 (IASリスク共生社会創造センター 非常勤講師/東京大学 環境安全本部 助教)

復帰後の社会像を議論し、リスク対応を検討し始める



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