リスク共生社会創造センター

2022年12月5日

第2回
昔と今の学生資質と産業安全との一考察

横浜国立大学 大学院環境情報研究院 准教授(併任) 笠井 尚哉


筆者が所属する棟の倉庫を掃除したところ、50年ほど前の卒業生、修了生の卒業論文、修士論文および関連資料がでてきました。現在のようにパソコンの文章編集ソフトウェア、表計算ソフトウェアなどで簡単に作成、推敲することができませんので、文章においては一文字一文字が、原理図、実験装置図および実験結果のグラフにおいては直線、曲線、マーカーなどが手書で丁寧に書かれています。

25年ほど前ですが筆者が学生の頃は、学部において実験、課題レポートは手書きでしたが、卒業論文、修士論文は文書編集ソフトウェア、表計算ソフトウェアなどで作成しましたし、20年ほど前から実験や課題レポートもパソコンを使用して作成するように本学では指示しています。

従って、40代後半の筆者を含め、現在の多くの学生にはとても同じレベルで作成することは困難だと思っています。

さらに、簡単にモデル化でき、見えやすい解析結果がでるシミュレーションソフトや簡単なボタン操作で動くような便利な実験装置がないため、シミュレーションを行う際には、自分自身で一部のプログラムを補完するなどの事前準備や面倒なコマンド入力が必要で、実験を行う際には予備実験を含め、入念に事前検討が行われていた様子も感じ取ることができます。

横浜国立大学の例で示しましたが、上記のような傾向は、全国の大学でも同様だと思います。

そういった素養を持った当時の学生が産業プラントを保有する会社に入社し技術者となり、その当時は設備の新設が現在より多かったと思いますので、設備の中 身を目の当たりにしながら経験を積み、さらに、その後、設備の経年化に伴い故障への対処を適度に経験することで、技術者として十分成長することができたと思います。

現在は、当時のように設備の新設はないと考えられますので、比較的若い技術者は失礼ながら技術者として未熟なうちに経年化により故障率が高い設備の中、日々、運転、保全に取り組むといった難しい状況にあると推察しております。さらに、近年は自然災害が激甚化してきており、巨大地震、巨大津波、従来より大きくなった降水量、強風、気温、気温差などの外部要因が設備に影響を与えるという状況にあります。

もちろん、現在の学生は、昔の学生と比較してAI, IoT、DX技術を適切に使いこなす能力等優れている点もあると思いますが、何か起こった際には、最後は人間の解決力が必要な場合もあると思いますので、40代後半の筆者を含め、昔の技術者と同様なレベルを目指し、 日々、勉強、努力を継続しながら、設備の安全確保に務めることが重要だと思っています。



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