リスク共生社会創造センター

2020年5月22日

リスク共生の視点から見た新型コロナ対応

復帰後の社会像を議論し、リスク対応を検討し始める

IASリスク共生社会創造センター
非常勤講師  中山 穣 
(本務:東京大学環境安全本部 助教)


新型コロナウイルスの流行により、人の健康及び生命だけではなく、市民生活や経済活動、社会制度、文化等に多様な問題が発生し、それぞれの立場で大なり小なり様々な課題が顕在化した。まずはパンデミックの収束が期待されるが、ここでは先んじて下記の2点より今後の課題解決の考え方を整理する。

【課題解決に向けた2つの視点】

  • 時間を考慮した対応により、新型コロナウイルスの影響を最小化する。
  • 復帰後の社会像を今から議論する。

時間を考慮した対応により、新型コロナウイルスの影響を最小化する。

新型コロナウイルス対策への最大の関心は、感染者数および感染による死亡者数を最小限に抑えることである。これは労働災害や交通事故、産業施設の事故に似た考え方であり、つまり人の健康および生命が重要な評価軸であると言うことである。

当然、人の健康や生命は大切であるが、新型コロナウイルスの影響は冒頭で述べた通り、人の健康や生命に留まらず、社会活動等に拡大している。様々な問題が相互に連動・波及していく中で、その影響の拡大を止める対策に加えて、問題が収束するまでの時間を念頭に置いた対策が必要である。その基本的な考え方が「レジリエンス」である。

レジリエンスとは、各専門分野で定義が異なるため画一的に明記することは難しいが、ここでは “何らかの問題が発生することを防ぎ、さらに問題発生後に元に戻る能力” とする。

図に「レジリエンスの概念」「新型コロナウイルスの状況」を記載した。
レジリエンスの概念に基づけば、問題による被害の程度はピークの高さではなく、"面積の大きさ" になる。つまり、C点の位置で被害を評価するのではなく、A点からE点までの面積(斜線部)で被害を評価する。

新型コロナウイルスの被害を評価する場合、感染者数や死亡者数の多さだけではなく、様々な社会影響を考慮した総合的な視点に基づき、問題が発生した時点から復帰するまでの被害にて新型コロナウイルスの影響を評価することになる。

「レジリエンスが高い」と言うことは被害を最小限に抑えることにつながるが、その対策は次の2つの方針に大別される。1つ目は、ピークの位置を低くする(C点を高くする)。2つ目は、発生した問題を早く収束させる(E点に至る時間を短くする)。
ピークを低くする方策として、5月末までの緊急事態宣言に基づく活動制限や三密防止等が該当し、日本における新たな感染者数の推移を見る限り、それらの対策により一定の効果が現れているように思われる。2つ目については以降に述べる。


復帰後の社会像を今から議論する。

ここ5月4日に厚生労働省より「新しい生活様式」が公表された。
これは、新型コロナウイルスの問題が収束へ向かう中で、一人ひとりの考え方や行動を改めることで感染リスクを下げ、第二・第三の波を防ぐ対策であると考えられる。

図を用いて説明すれば、「C点」から「D点」あるいは「E点」へ向けた対応である。しかし、一人ひとりの対応だけでは効果的な対策に限界があり、個々人を支える組織、社会基盤及び社会制度等の支えが不可欠である。
特に、組織及び社会活動の低下は著しく、元の生活に戻るためにはこれまでに無い大きな転換が求められるだろう。その際には、現状復帰後の社会像をコロナの問題が収束し始める前から想像し、望ましい姿の実現に向けた仕組み作りが大切である。

現状復帰の地点をどの位置にするのかを関係者で検討し、共有することも大切である。
現状復帰に至る過程として、短期間での急激な復帰は第二・第三の被害だけではなく、社会活動へ歪みを生み出す恐れがある。したがって、復帰に際して、どれくらいの期間を要するかを想定することも重要である。

例えば、コロナ騒動が発生する前の「A点」と同じ縦軸への復帰を目指した場合、復帰点を「E点」とするのか、それとも「F点」として緩やかな復帰を目指すのかに応じて、復帰へ向けた対応は変化する。また、時間軸だけではなく、社会活動の軸も重要な検討項目となる。目指す社会像として「G点」を定める、言い換えれば、「A点」よりも高い社会活動を目指すという考えもある。

目指す社会像が変われば、その過程も変化する。目指す社会像への過程には、様々な不確かさがあり、目指した社会像と復帰後の社会像に乖離が発生する可能性もある。そのため、復帰に向けても適切な「リスクマネジメント」が重要となる。まずは、復帰後の社会像を関係者間で議論し始めることにより、リスク評価や対応に向けて目的を決定することが求められる。


レジリエンスの概念と新型コロナウイルスとの関係
図 レジリエンスの概念と新型コロナウイルスとの関係


  • ● A点・・・・・新型コロナウイルスの騒動が発生する前の時点
  • ● B点・・・・・新型コロナウイルスの影響が拡大し、パンデミックが発生した時点
  • ● C点・・・・・新型コロナウイルスの影響がピークを迎える時点
  • ● D点・・・・・新型コロナウイルスの影響が収束に向かう時点
  • ● E, F, G点・・ 新型コロナウイルスの問題が収束した時点
    (※目指すべき社会像に応じて、E, F, G点は変化する。)



関連サイト

■■ 著者:中山 穣 (IAS リスク共生社会創造センター 非常勤講師/東京大学環境安全本部 助教)

復帰後の社会像を議論し、リスク対応を検討し始める


■■ 著者:野口 和彦 (IAS リスク共生社会創造センター 客員教授(前センター長))

第1回 【総論】 コロナ感染の状況の変化により社会の運営の優先順位を明確に定めよ

第2回 危機時におけるリスクマネジメント(その1) 何を今の着目リスクとして考えるか
~多様なリスクを検討し、対応を判断した仕組みを説明せよ~

第3回 危機時におけるリスクマネジメント(その2) リスクを分析する前に整理すべきこと
~リスクは状況によって変化する~

第4回 危機時におけるリスクマネジメント(その3) リスクの不確かさをどのように考えるか  
~[リスク分析・評価の要点 その1] 検討するリスクの特定と捉え方~

第5回 危機時におけるリスクマネジメント(その4) リスクの不確かさをどのように考えるか  
~[リスク分析・評価の要点 その2] リスクの分析・評価を考える~

第6回 危機時におけるリスクマネジメント(その5) リスクへの対応を考える

第7回 危機時におけるリスクマネジメント(その6) コロナ後の社会へ


■■ 著者:宇於崎 裕美 (IASリスク共生社会創造センター 非常勤講師/エンカツ社 代表取締役社長)

第1回 新型コロナウイルスに関する危機管理広報 情報公開とプライバシー保護のバランス

第2回 新型コロナウイルスに関する危機管理広報 偏見と差別を防ぐコミュニケーション

第3回   新型コロナウイルスに関する危機管理広報 ステークホルダーの共感が得られる発表文書の書き方


■■ 著者:大重 賢治 (横浜国立大学 保健管理センター 教授)

第1回 重症化リスクの計量について ~はじめに~

第2回 重症化リスクの計量について ~オープン・フェア・ベスト~

第3回 重症化リスクの計量について ~コールトリアージ生命危険確率の説明変数~

第4回 重症化リスクの計量について ~コールトリアージの生命危険確率計算~

第5回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク計算の説明変数候補~

第6回 重症化リスクの計量について ~COVID-19 重症化リスク評価とモニタリング~

第7回 危機時におけるリスクマネジメント(その6) コロナ後の社会へ




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