リスク共生社会創造センター

2020年5月8日

リスク共生の視点から見た新型コロナ対応

(第5回) 危機時におけるリスクマネジメント その4
リスクの不確かさをどのように考えるか
~[リスク分析・評価の要点 その2] リスクの分析・評価を考える~

横浜国立大学 IASリスク共生社会創造センター
客員教授(前センター長)  野口 和彦

不確かな状況でのリスク評価という概念を理解しよう。

1.危機時の判断基準

危機時には、判断すべきことが色々と出てくる。そして、その判断の根拠として明確な判断数値・データを求めるという要求もでてくる。

リスクマネジメントでは、その判断基準を「リスク基準」といい分析の前に設定し、リスク基準を満足しているか否かを判断できる分析を行うことが求められる。
しかし、危機時には、そのリスク基準の設定が難しい場合もある。それは、危機時には、ある課題へのリスク対策が別のリスクへの影響を及ぼすために、一つのリスクの専門性だけでは、リスク基準が設定できないからである。

このような不確かな状況下で、明確なリスク基準を設定すると、危機時対応の対策を縛ってしまうという課題が生まれる。 また、分かりやすい対策を求めると、かえって事態を悪化させる場合もある。
危機時には、関係のある状況の前提を条件にしながら「リスク基準」を設定することが求められる。


2.危機時のリスク分析・評価

リスク評価の結果は、判断を支援するものであって、リスク評価の結果によって自動的に判断が決まるわけではない。

それは、リスク評価には、評価の前提、仮定、評価モデルの限界があるからである。

コロナ禍において報告される各種の数値も、この限界を持っている。報告される数値がどの程度状況を正確に反映しているかは、必ずしも明確ではない。現状のデータといっても、現在の数値は、現状を正確に表している確定値では無く、リスク評価のレベルにとどまっている。

通常のリスク評価では、現状の分析における結果だけでも現状の行動のあり方を決めることができる場合と、リスクをより深く理解するために,更なる分析に着手する場合がある。

しかし、危機時には、限られた情報においても、何らかの判断をすることが求められることが多い。その時は、判断の根拠の不確かさに関しては、念頭においておき、詳しい状況が明らかになった場合は、その判断も変更することがあることを認識しておく必要がある。

評価による対策の選択肢は複数あるが、その選択肢に関しては、次回に整理する。


3.考えよう

危機時には、我々は行政や指導者に行動の指針を求める。各自が自分の考えで動いてしまうと社会としての混乱が発生し、社会の適切な活動を行うためには、社会活動の規範や方向性を求めるのは当然のことである。

しかし、全体規範や方向性は、あらゆることに関して具体的で詳細な活動のあり方を示すことは、不可能である。

危機時を乗り切るためには、今行うことを自分でしっかりと考えることが必要だ。

指示がなければ、我々は、何もできないのか?

各自で、各組織で準備できることはあるはずである。

それぞれが、リスクを考え、評価し、自分の活動のあり方を考えよう。

このことは、コロナ禍を通して獲得できる新生活方式の一つでもある。


解 説

「リスク分析」

リスク分析では,リスク源と結果が常に一対一とは限らず、一つのリスク源が、複数の結果をもたらすこともあるし、一つの結果をもたらすリスク源や顕在化シナリオが複数あることもある。

リスク分析は、単にその分析精度を上げることが目的では無く、その内容や結果が対応の判断に有効であるということが重要である。判断に有効な分析を行うためには、判断に必要または重要な情報が何かを知る必要がある。

リスク分析においては、専門家間でも、リスク源やシナリオ進展に関する確率等において意見が異なることもある。分析では、検討を行った前提、条件やデータ、分析の精度等を付加情報として添付し、判断者に示すことが重要である。

また、対策を考える際には、そのリスクを変化させる対応が他のリスクに対して如何なる影響を与えるかを検討する必要があり、分析においてリスクの連関を明らかにしておく必要がある。

リスク分析の深さや精度は、その結果をどのように使用するかによって異なる。



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