リスク共生社会創造センター

2020年6月17日

リスク共生の視点から見た新型コロナ対応

重症化リスクの計量について
「第6回 COVID-19 重症化リスク評価とモニタリング

横浜国立大学 保健管理センター
教授  大重 賢治
准教授  藤川 哲也


2020年5月12日、JAMA Internal MedicineにChina Medical Treatment Expert Group for COVID-19の論文が掲載された1)。昨年の11月21日から今年の1月31日の間に COVID-19により医療機関に入院した1,590人について重症化リスクを計量的に評価した報告である。同グループは、ロジスティック回帰モデルを用いた重症化の確率計算ツールをウェブサイトで公開している1)

COVID-19は、国や地域によって、拡大状況や致命率が大きく異なる。それが環境要因によるものなのか、病原体のタイプによるものなのか、今後、少しずつ解明されていくことだろう。COVID-19ほど、重症化リスクが宿主(ヒト)によって大きく異なる感染症も珍しい。この疾患のリスクを可能な限り見極めることは、医学的に重要であるだけでなく、私たちの社会システムにとっても重要である。

重症化を予測するための指標(説明変数)の候補については第5回のコラムで述べた。それらの指標が、どのくらい重症化リスクを説明するか、県レベル・市レベルでも評価を行った方がいい。重症化リスクの定量的評価を、「医療崩壊を防ぐ新たな医療体制」の構築に用いるのであれば(筆者らはその方が良いと考えているが)、運用後も検証し続けられる仕組みも整えた方がいい。


例えば、こういうのはどうだろう。

システムに関して

  • ウイルスの伝播力が増すことが予想される冬季に備えて、それまでに得られた感染者のデータを、匿名性を確保した上で、集計・解析し、定量的な評価を行う。
  • 定量的な評価をもとに、重症化リスクの計量モデルを構築する。
  • 情報を入力することによって計量モデルに基づいた重症化リスクが表示されるコンピュータプログラムを作成する。
  • プログラムは、ウェブでの入力を可能とし、入力データは自動的にデジタルデータとして蓄積されるシステムにする。
  • 蓄積されたデータを再解析し、アルゴリズムの再構築を行える体制を整える。


運用に関して

  • PCR検査にて陽性が判明した段階で、陽性者の重症度・重症化リスクを評価する。
  • 重症と判断される場合は、重症者対応医療機関へ、今後重症化する可能性が高いと判断される場合は、それに応じた医療機関への入院を想定する。
  • 医療機関への入院に至らずに、宿泊施設や自宅での待機となった陽性者は、重症化リスクモニタリングの対象とする。待機用のID番号とパスワードを渡し、症状・徴候を毎日ウェブ入力してもらう。画面に表示される重症化リスクを、待機者自身が確認できるようにする。
  • 待機者の重症化リスクを、行政機関においても把握し、待機中にリスクが高まった場合には、医療機関へ繋ぐ等、適切な対応を取れるようにする。
  • 入力が滞っている待機者には、安否確認の意味からも問い合わせを行うようにする。
  • 待機期間が終了した時点でモニタリングを終了し、データは、重症化リスク評価のアルゴリズム更新に使用を限定し、ID番号と個人情報の連結を破棄する。


いわば、検査陽性者(感染者)のトリアージであるが、優先的入院(Priority admission)と表現した方が良いように個人的には思う。

精度に関しては、コールトリアージより有利な点がいくつかある。

  • → 入力に時間をかけられる
  • → 入力項目を多くできる
  • → マイナスの係数を使える
  • → 経時的な評価が行える


救急司令センターで行われるコールトリアージにかけられる時間はせいぜい数十秒である。救急通報ゆえ、時間的な制約がある。それに対し、検査陽性者のトリアージには十分な時間をかけられる。これは、入力項目を多くできることも意味している。

コールトリアージは、計量モデルにマイナスの係数を用いていない。マイナスの係数(リスクは軽減)を持つ入力項目があると、入力中にリスクが上下してしまうので、決定を素早く行わなければならないコールトリアージには不向きなのである。この点、検査陽性者のトリアージには、入力が終了した時点で重症化リスクが表示される仕組みがとれるので、マイナスの係数を持つ入力項目を用いることが可能になる。

コールトリアージは、救急通報があった時点だけでの実施であるのに対し、検査陽性者のトリアージでは、経時的な評価が可能である。例えば、2日目の体温が37.4℃であった場合、3日目の体温が36.9℃であるのと37.9℃であるのでは、重症化リスクが変わってくる可能性がある。

一方、精度に関して、コールトリアージより不利となりうる点がある。

  • ⇒ 入力者によって入力精度にばらつきが生じる可能性がある
  • ⇒ 十分な件数が確保できない可能性がある

コールトリアージが行われる際は、トレーニングされた司令員が聴取・入力を行うので、入力の精度にばらつきはない(ただし、通報者の属性による情報精度のばらつきはある)。待機者については、本人もしくは近い人が入力する形になるので、入力データの精度にばらつきが出る可能性がある。医療機関に入院した患者のデータと比較して検証を行った方が良いと思われる。

横浜コールトリアージの場合は、年間10数万件発生する救急通報を解析することで精度の向上を図れる。検査陽性者のトリアージに関しては、十分な検査体制を構築しても感染発生自体が少ないのであれば、精度の向上は図れない。ただ、感染発生が少ないということであれは、社会としては望ましいことであり、むしろその方が良い。


おわりに

6回に分けて、コールトリアージシステム構築の経験を振り返りながら、重症化リスクの計量について考察した。初めて出会った感染症を可能な限り見極めることは、私たちの社会にとって非常に重要である。重症化リスクの計量には、十分に確立した方法がある。私たちの医療システムを守るためにも必要なことであると考える。

コラム執筆の機会を与えてくださったリスク共生社会創造センターの先生方、掲載作業にご尽力いただいた同センタースタッフの方に心より御礼申し上げます。



1) Wenhua Liang, et al. Development and Validation of a Clinical Risk Score to Predict the Occurrence of Critical Illness in Hospitalized Patients With COVID-19. JAMA Intern Med. Published online May 12, 2020.
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2766086


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