リスク共生社会創造センター

2020年4月9日

リスク共生の視点から見た新型コロナ対応

(第1回)
【総論】 コロナ感染の状況の変化により社会の運営の優先順位を明確に定めよ

横浜国立大学 IASリスク共生社会創造センター
客員教授(前センター長)  野口 和彦

社会に多様でそれぞれが連携しているリスクが存在しており、すべてのリスクを無くすことはできない。

リスク共生とは、多様なリスクの中から、受容するリスクを適切に定め、目標とする社会を実現する手法である。

現在の新型コロナウィルス感染が社会に大きな影響を与えている状況は、まさにどのリスクとどう共存していくかを考えて行く状況である。

危機時には、社会のすべての要望に応えることはできず、多様な要望に応える対策は、それぞれの効果を打ち消し合う場合がある。

また、危機時には、様々な憶測や意見が飛び交うので、行政の情報発信が重要である。

厳しい環境下にあるときは、現状を如何に乗り切るかということに集中しがちであるが、あらたな状況変化に備えて次のステージに対する検討も始めることが必要である。


本提言は、リスク共生と危機管理の視点から行うものである。

  1. 社会運営の優先順位を明確にして迅速に対策を実施する。
  2. 個々が予定している目標やスケジュールは、優先順位の目標達成を優先させ、適切に変更する。
  3. 危機時には、通常の規則・ルールを柔軟に適用し、危機時に即した対応が可能になるようにする。
  4. 行政は、対策を体系的に発信することが望ましい。
  5. 状況が変化してくると新たなリスクが顕在化してくる。新たな状況への対応が遅れると別の危機が現れる。危機時こそ、重層的な検討が必要である。


解 説

新型コロナへの医学的対応は、医療専門家の意見に従い対応をしていくことになるが、社会運営には、その際に生じる様々な影響を考慮する必要がある。

あらゆるリスクを小さくする方策はない。それは、ある特定のリスクへの対応は、別のリスクを生み出すからである。

リスク共生の難しさは、関係するリスクを正しく把握したとしても、その対応の考え方が立場によって異なることである。

異なる立場での要求をすべて勘案すると、それぞれの対応が互いの効果を打ち消すことにもなりかねない。

有効な対策の打っていくためには、その状況下における優先目標を明確にする必要があり、その決定は行政が責任をもって決めていくしかない。

また、市民や企業も、その活動スケジュールや目標を状況に応じて換えていく必要がある。

危機時には、市民の不安、憶測を払拭し、希望を持って社会活動や対策を継続するためには、以下の活動を体系的に実施する必要がある。

  1. 行政は、市民・企業に対して、優先すべき事象を示してその必要性を説明する。
  2. 対応の対象として定めた事象に対する対策の有効性と開始の時期と対策を継続する時期の検討。
  3. その対策を実施した場合の、他の影響の検討。
  4. その他の影響を小さくする方策の検討。
  5. 2から3までの検討結果をセットで市民に説明を行う。

危機は、常に変化していく。危機管理は、ある対策を実施し、その効果が得られそうに無いときは、即時に次の対策を出していく必要がある。

また、感染のピークが過ぎた場合でも、対応の緩みや状況の変化に対して対策の急減な緩和を要求する意見が出てくることが予想されるが、その対応を誤ると危機が収束できなくなる。そして、医学的危機を脱すると、経済危機、生活危機等新たな危機が到来してくる。

社会としての危機管理では、常に先手を打つことが望まれる。



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